家族信託と任意後見はどう違うの?
- 2017/7/6
- 2019/3/26
家族信託と後見のメリット・デメリット
家族信託の制度と成年後見の制度は、比較するとさまざまな違いがあります。
それぞれにメリットやデメリット、注意しなければいけないことがあり、場合によっては両方の手続きで手当てをする必要もでてきます。
それぞれの制度の違いを見ていきましょう。
成年後見(法定後見)について
本人が認知症などにより、精神上の障害で判断能力・意思能力が低下した場合に利用できます。
身体障害者は利用できません(判断能力がある場合)。
成年後見制度は、被後見人が行う「法律行為」を代理するための制度です。
売買などの契約行為などについて、代理します。
また、「身上監護」も後見人の仕事ですので、病院や保険に関する手続きや、施設の入所・転出などの手続きも、後見人の職務になります。
しかし、成年後見人は、「事実行為」に関する義務は負いません。
事実行為とは、意思表示に基づかない行為(事実上の行為)によって、法律行為を発生させる行為のことです。
そのため、たとえば日常の金銭管理や介護などについての支援は難しいと考えられます。
成年後見人の選任
成年後見人は、裁判所が選任をすることになります。
後見人の候補者を立てて、成年後見の申立てをしても、最終的には裁判所が決定することになります。
最近では、弁護士や司法書士などの専門家が後見人として選出されることが多くなっています。
成年後見の目的と考え方
成年後見制度は、本人のために、
- 財産を維持する
- 支出は本人のために必要なもののみ
という考え方により運用されます。
したがって、生前の相続対策、相続税対策をとることは、原則としてできません。
なぜなら、相続に関する生前対策は、相続人が節税をするためのもので、本人のためになるものとは言えないからです。
よく問題になるのが、本人が土地や建物・家屋といった不動産を所有している場合。
この場合は、原則として、不動産はそのまま維持することになるのが原則です。
アパートを建てたりして有効活用をしたりすることはできず、土地を売りたいと思っても、制限があるためすんなりとはいきません。
保佐・補助
保佐や補助のレベルであれば、本人自身による財産の処分も一部可能となる。
しかし、適切でない財産処分が行われた場合に、その行為を取り消したとしても、財産が流出して移転した場合は、その回収が困難となる。
法定後見の注意点
成年後見(法定後見)の注意点としては、後見人を自分で自由に選ぶことができない点や、財産の管理についての制限が多い点などが挙げられます。
任意後見について
任意後見は、上記の成年後見制度の目的・趣旨は同じです。
違う点としては、成年後見(法定後見)の場合は、裁判所が後見人を選任しますが、任意後見の場合は、あらかじめ後見人を選定しておくことができるという点です。
任意後見人の選任
任意後見契約では、本人の意思判断能力がハッキリしているうちに、任意後見契約を締結し、あらかじめ後見人を選任したり、後見人の職務の範囲を定めることができます。
任意後見契約において、本人の居住用不動産を売却する権限についての代理権を与えるということもできます。
任意後見の効力発生
任意後見契約が発動するのは、本人の判断能力が衰えたときです。
裁判所に対して、任意後見監督人の選任を申立てし、選任された時から任意後見が開始します。
任意後見が開始する前は、後見人として財産管理を行うことができません。
そのため、以下のように、財産管理について委任契約を行うケースがあります。
財産管理の委任契約
任意後見契約と併用して、委任契約を行う場合も多くあります。
この委任契約とは、任意後見が発効する前に、財産管理について委託を受けて、行うことができるようにするものです。
任意後見の注意点
任意後見契約の本質は、代理権を授与するという点にあります。
したがって、任意後見契約が発効した後であっても、本人自身の行為能力については、制限をうけません。
そのため、本人がだまされて被害にあったような場合でも、意思判断能力の低下を理由として取り消すことはできません。
家族信託について
家族信託は、後見のような制限がなく、広範な財産管理を行うことができます。
後見の場合は、本人の財産を維持するという目的で行われるため、相続のための対策、相続税の節税方法などをとることができませんでしたが、
家族信託の場合は、信託契約で定めるところにより、相続人のための相続対策、財産の有効活用や資産の組み換えなど、柔軟に行うことができます。
家族信託のデメリット
家族信託のデメリットとしては、信託に身上監護の義務がないという点が挙げられます。
そのため、身上監護や日常生活の支援については、後見制度(任意後見)で対応すべきとされています。
また、委託者の財産が、受託者の名義に変更することになるため、財産が取られるというように感じられてしまうという方もいらっしゃいます。
家族信託の普及が、ようやく一般のお客様にも伝わってきましたが、まだ後見手続きほど認知されていない点も課題といえます。
身上監護とは
身上監護とは、生活・医療(治療や療養を含む)・介護など、身の回りのことに関する法律行為を行うことをいいます。
身上監護は、後見人が行う職務の一つです。
たとえば、被後見人の住居の確保や、施設の入所・退所・移転に関する手続き、被後見人の医療(治療)に関する手続き、病院への入院の手続きなどです。
間違いやすい点は、後見人が直接、被後見人の生活の面倒を見たり、引き取って同居をしたり、病院に送り迎えをして身体介護をしたりしなければならないというわけではありません。
後見人の業務は、あくまで、契約を締結したりする「法律行為」を行うことです。介護などの事実行為については、施設に任せることは問題ありません。
家族信託と後見まとめ
家族信託と任意後見、法定後見(成年後見)制度には、それぞれメリット・デメリットがあり、使いわける必要があります。
家族信託は、従来の後見の制度に縛られず、柔軟な対応が可能ですが、任意後見を併用することも必要になるケースもあり、お客様の事情に応じて選択することが必要です。
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