【家族信託・民事信託のための信託法の条文解説(1)】趣旨、定義
- 家族信託の事例紹介
- 2021/6/29
- 2021/6/29
家族信託・民事信託の根拠となる信託法について
家族信託・民事信託では、信託法を根拠として、内容を設計していきます。
以下で、信託法の条文を解説します。
(担当司法書士 平石)
信託の趣旨と定義について
第一章 総則
(趣旨)
第一条 信託の要件、効力等については、他の法令に定めるもののほか、
この法律の定めるところによる。
【解説】
他の法令とは、主に民法を指していることが多いと考えられます。
信託法と民法は「特別法」と「一般法」の関係にあります。
信託法に明文規定されているものは、信託法が優先し、信託法に規定がない部分は民法が適用されます。
この関係は、信託法と民法との関係にとどまらずほとんどの法令と民法の関係に及びます。
特別法の中に記載されていなかったら民法のどの条文があてはまるのか、
それをどのように法律構成するのか考える必要があります。
(定義)
第二条 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、
特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い
財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。
【解説】
「特定の者」とは、受託者のことをいいます。
又、この条文によって、もともと認識していた私の信託に対するイメージが変わりました。
漠然と持っていた信託のイメージは、委託者が、信託財産を受託者に委託し、
その信託財産を受託者が、管理や処分等を行った結果、
その活動の恩恵を受益者が受けるものだというイメージがありました。
しかし、信託法における信託というのは、受託者が、一定の目的に従い
信託財産の管理、処分、必要な行為を行うことであると定義づけています。
受託者の行為が信託なんですね。
2 この法律において「信託行為」とは、次の各号に掲げる信託の区分に応じ、
当該各号に定めるものをいう。
一 次条第一号に掲げる方法による信託 同号の信託契約
二 次条第二号に掲げる方法による信託 同号の遺言
三 次条第三号に掲げる方法による信託 同号の書面又は電磁的記録
【解説】「信託行為」とは信託の内容を定めたものをいいます。
民事信託の設定の方法には
- 信託契約を締結する方法
- 遺言による方法
- 自己信託(委託者と受託者が同じ)の方法
が、あります。
「信託行為」とは、1. の場合には、信託契約書のことを指します。
2. の場合には、遺言書のことを指します。
3. の場合には、公正証書等の書面や電磁記録のことを指します。
家族信託・民事信託における信託財産と家族信託の当事者
3 この法律において「信託財産」とは、受託者に属する財産であって、
信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう。
【解説】「信託財産」と受託者に属する財産とスパッといいきっていますね。
信託法において、受託者が中心に位置づけられているんですね。
4 この法律において「委託者」とは、次条各号に掲げる方法により信託をする者をいう。
【解説】「委託者」とは、
- 信託契約を締結する方法
- 遺言による方法
- 自己信託の方法
により信託をする者をいいます。
5 この法律において「受託者」とは、信託行為の定めに従い、
信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために
必要な行為をすべき義務を負う者をいう。
【解説】ここでも、「受託者」が、信託行為の義務者・責任者であることが分かります。
6 この法律において「受益者」とは、受益権を有する者をいう。
7 この法律において「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う
債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに
係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて
受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。
【解説】 「受益者」とは、信託財産から発生する受益債権を享受できるものであり、
そのために、「受託者」に一定の行為を求めることができます。
家族信託・民事信託の財産の考え方と責任
8 この法律において「固有財産」とは、受託者に属する財産であって、
信託財産に属する財産でない一切の財産をいう。
【解説】 受託者の財産を「固有財産」と「信託財産」に分けています。
受託者が、破産宣告を受ける場合でも、「信託財産は」破産の財産の中に含まれません。
ちなみに固定資産税は、受託者に賦課されます。
9 この法律において「信託財産責任負担債務」とは、
受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう。
【解説】 ここでも、受託者の義務が定められています。
10 この法律において「信託の併合」とは、受託者を同一とする二以上の
信託の信託財産の全部を一の新たな信託の信託財産とすることをいう。
【解説】 「信託の併合」とは、例えば、
- 「父を委託者兼受益者、長男を受託者とする家族信託」
- 母を委託者兼受託者、長男を受託者とする家族信託をしているときに、
父が死亡し、受益権を全て母が相続した場合
1. と 2. の家族信託は受益者が同一となるため、2つの家族信託を1つにまとめることです。
11 この法律において「吸収信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を
同一とする他の信託の信託財産として移転することをいい、「新規信託分割」とは、
ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする新たな信託の信託財産として移転することをいい、
「信託の分割」とは、吸収信託分割又は新規信託分割をいう。
【解説】「信託の分割」受託者が同一であることが要件なんですね。
12 この法律において「限定責任信託」とは、
受託者が当該信託のすべての信託財産責任負担債務について信託財産に
属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託をいう。
【解説】 受託者が信託財産の管理にあたり、その権限に基づき借入を行った場合、
貸しつけた債権者は、、借入金の返済がなされなければ、
信託財産の差し押さえなど強制執行が可能です。
「限定責任信託」を設定すれば信託財産のみを信託にかかる債務の返済に充てればよくなるわけです。
登記が効力要件となります。
以上、信託法の趣旨と言葉の定義を見てきました。
信託とは、信託財産を受益者のために管理、
処分、必要な行為をする受託者の行為である という定義は意外でした。
(担当:平石)