家族信託・民事信託のための信託法の条文解説(6)
- 家族信託の認知症対策
- 2021/10/22
- 2021/10/22
前回までのブログもよかったらご参考にしてください。
前回までのブログ→ 条文解説(1)、条文解説(2)、条文解説(3)、条文解説(4)、条文解説(5)
【解説】受託者は、不作為による受益者の不利益になる行為を、受託者又はその利害関係人の計算でしてはならないと規定されています。
二 受託者が当該行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることについて重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。
【解説】受託者は、不作為による受益者の不利益になる行為を受託者又はその利害関係人の計算でしてはならないが、次の場合は許容されます。
- 信託契約書等に許容する定めがあるとき。
- 重要な事実を開示して受益者の承認を得た時。ただし、信託契約書等でできない定めがあるときは、不可。
【解説】受託者は、不作為による受益者の不利益になる行為を受託者又はその利害関係人の
計算でした場合には、信託契約書等に別段の定めがないときは、当該行為についての
重要な事実を通知しなければならないと定められています。
【解説】信託契約書等に許容する定めもなく、重要な事実を開示して受益者の承認も得られず、得られたとしても信託契約書等にできない定めがあるときには、
受託者が、不作為による受益者の不利益になる行為を受託者又はその利害関係人の計算でした場合は、受益者は、当該行為は信託財産のためにされたものとみなすことができます。ただし、第三者の権利を害することはできないと定められています。
【解説】前項の規定による権利は、行為の時から一年を経過したときに消滅すると定められています。
公平義務
【解説】家族信託・民事信託では、受益者が2名以上となる信託も可能です。このように、二人以上ある信託においては、受託者は、それぞれの受益者のために公平に、受託者としての職務を行われなければならないと定められています。
分別管理義務
【解説】受託者は、「信託財産」と「受託者の固有財産」と「他の信託の信託財産」を、それぞれの財産の区分により、それぞれの定める方法により分別して管理しなければならないと定められています。信託契約書等に別段の定めがあるときは、その定めるところによるものとします。
【解説】信託の登記又は登録することが財産は、当該信託の登記又は登録をして管理します。(受益証券の発行されない受益権については、受益権原簿への記載又は記録します。)
登記できる財産の代表例としては、不動産です。家族信託・民事信託では、認知症対策のために、自宅やアパート、駐車場などの土地・家屋(建物)を、信託して管理を行うということが多くあります。この場合は、受託者へ信託の登記を行うことになります。
【解説】動産(金銭を除く)は、信託財産と固有財産、他の信託財産に属する動産とを外形上区別することができる状態で保管することにより管理します。
【解説】金銭や、その他の動産以外の財産は、その内容・計算が明確になる方法により、管理します。
【解説】受益証券の発行されない受益権については、受益権原簿への記載又は記録を行うことにより管理します。
【解説】信託契約書等に別段の定めがある場合でも登記又は登録できる信託財産は、受託者は、登記、登録しなければならないと定められています。
たとえば、家族信託・民事信託の契約において、不動産を信託財産とした場合、仮に信託契約書で「信託登記を不要とする」と定めたとしても、登記義務は免除されません。
信託事務の処理の委託における第三者の選任及び監督に関する義務
【解説】以下の場合に、信託事務の処理を第三者に委託するときは、受託者は、信託の目的に照らして適切な者に委託しなければならないと定められています。
- 信託契約書等に信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託することができる旨の定めがあるとき。
- 信託行為に信託事務の処理の第三者への委託に関する定めがない場合において、信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らして相当であると認められるとき。
- 信託行為に信託事務の処理を第三者に委託してはならない旨の定めがある場合において、信託事務の処理を第三者に委託することにつき信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認められるとき。
家族信託・民事信託の契約では、受託者が動けないような場合に備えて、信託事務の処理を第三者に委託することができるという定めを設定することが多くあります。信託事務処理を第三者に委託することができると規定してあっても、信託の目的から見て適切と考えられる人に委託をする必要があります。
【解説】前項の場合において、受託者は、信託事務の処理を委託した第三者に対し、信託の目的のために必要かつ適切な監督を行わなければならないとして、監督をおこなう義務が定められています。
二 ①信託行為において受託者が委託者又は受益者の指名に従い信託事務の処理を第三者に委託する旨の定めがある場合において、当該定めに従い指名された第三者
【解説】前2項の規定(適切な者に委託 / 必要かつ適切な監督)について、適用されないケースが、以下の2つです。
- 信託契約等において指名された第三者の場合
- 信託契約等において受託者が委託者又は受益者の指名に従い信託事務の処理を第三者に委託する旨の定めがある場合において、当該定めに従い指名された第三者の場合
ただし、受託者は、その第三者が「不適任もしくは不誠実」であること、又は、その第三者による「事務の処理が不適切」であることを知ったときは、
その旨の受益者に対する通知、当該第三者への委託の解除その他の必要な措置をとらなければならないと定められています。
【解説】前項ただし書の規定(第三者が不適任等の事由がある場合の必要な措置)にかかわらず、信託契約書等に別段の定めがあるときは、その定めによるとされています。
信託事務の処理の状況についての報告義務
【解説】委託者又は受益者は、受託者に対して、
- 信託事務の処理の状況
- 信託財産に属する財産
- 信託財産責任負担債務(信託財産が負担する債務)の状況
について、報告を求めることができると定められています。
家族信託・民事信託は、受託者が、受益者のために財産を管理するものでありますので、受益者に報告を行う必要があります。
帳簿等の作成等、報告及び保存の義務
【解説】受託者は、信託帳簿を作成する義務があります。
信託帳簿は、一の書面その他の資料として作成することを要しません。他の目的で作成された書類(または電磁的記録)をもって、信託帳簿とすることができると定められています。(信託計算規則4条二項)
【解説】受託者は、毎年1回、貸借対照表・損益計算書(以下「計算書類」といいます。)を、作成する必要があります。
計算書類の作成にあたっては、計算書類の作成のために採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他計算書類作成のための基本となる事項(次項において「会計方針」といいいます。)であって、次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く)を注記しなければならないと定められています。(信託計算規則14条)
一 資産の評価基準及び評価方法
二 固定資産の減価償却の方法
三 引当金の計上基準
四 収益及び費用の計上基準
五 その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項
【解説】受託者は、前項の書類等を作成した時は、その内容について受益者(信託管理人がいる場合は、信託管理人)に対して、報告する必要があります。なお、信託契約書等に別段の定めがある場合は、その定めに従います。
【解説】受託者は、第1項の書類(または電磁的記録)を作成した場合には、その作成の日から十年間(その期間内に、信託の清算の結了があったときは、その日まで)、当該書類等を保存しなければならないと定められています。
ただし、受益者に対して、その書類やコピーを交付したときを除きます。なお、二人以上の受益者がいる場合にあっては、そのすべての受益者、信託管理人が現に存する場合にあっては信託管理人に対し、交付・提供することが必要です。
【解説】受託者は、信託財産に属する財産の処分に係る契約書 その他の信託事務の処理に関する書類(または電磁的記録)を作成したり、取得した場合にも、前項とおなじ保存期間等が適用されます。
【解説】貸借対照表、損益計算書、その他の法務省令で定める書類(又は電磁的記録)の保存についても、前項と同じです。
(帳簿等の閲覧等の請求)
二 前条第一項又は第五項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
【解説】受益者は、受託者に対し、
- 信託事務に関する計算にかかる帳簿その他の書類等
- 信託財産に属する財産にかかる帳簿その他の書類等
- 信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため信託財産に係る帳簿その他の書類等
- 信託財産に属する財産の処分に係る契約書等
- その他の信託事務の処理に関する書類等
これらの書類の閲覧または謄写(コピー)の請求をすることができると定められています。
二 請求者が不適当な時に請求を行ったとき。
三 請求者が信託事務の処理を妨げ、又は受益者の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
四 請求者が当該信託に係る業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
五 請求者が前項の規定による閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
六 請求者が、過去二年以内において、前項の規定による閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
【解説】前項の請求を拒むことができる場合は、以下のとおりです。
- 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
- 請求者が不適当な時期に請求を行ったとき。
- 請求者が信託事務の処理を妨げたり、受益者の共同の利益を害する目的で、請求を行ったとき。
- 請求者が当該信託に係る業務と実質的に競争関係にある事業を営業または従事するものであるとき。
- 請求者が前項の規定による閲覧・謄写によって知り得た事実を、利益を得て第三者に通報する目的で請求したとき。
- 請求者が、過去二年以内において、前項の規定による閲覧又は謄写によって知り得た事実を、利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
上記の場合を除き、受託者は請求を拒むことはできません。
【解説】前項の規定は、
- 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
- 請求者が不適当な時に請求を行ったとき。を除き、受益者全員から請求があったときは、適用しないと定められています。
二 当該受益者以外の者の利益を害するおそれのない情報
【解説】信託契約等において、「受益者が同意をしたときは第1項の規定による閲覧・謄写の請求をすることができない旨の定め」がある場合には、
その同意をした受益者(その承継人を含む)は、その同意を撤回することができないと定められています。
ただし、以下の情報は除外されています。
- 前条第2項の書類(又は電磁的記録)の作成に欠くことのできない情報 その他の信託に関する重要な情報
- 当該受益者以外の者の利益を害するおそれのない情報
【解説】前項について、受託者側から見た条文です。
受託者は、前項の同意をした受益者から、第1項の規定による閲覧・謄写の請求があったときは、
- 前条第二項の書類(又は電磁的記録)の作成に欠くことのできない情報その他の信託に関する重要な情報次に掲げる情報
- 当該受益者以外の者の利益を害するおそれのない情報に該当する部分を除き、拒否することができると定められています。
二 前条第二項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
【解説】利害関係人は、受託者に対し、貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類又は電磁的記録の閲覧・謄写の請求をすることができると定められています。
他の受益者の氏名等の開示の請求
二 他の受益者が有する受益権の内容
【解説】受益者が二人以上ある信託においては、受益者は、受託者に対し、
- 他の受益者の氏名・名称・住所
- 他の受益者が有する受益権の内容
について、開示請求することができます。
この場合は、相当な方法によることと、請求の理由を明らかにする必要があります。
家族信託・民事信託では、受益者が2人以上の信託契約もありますし、受益者ごとに1本ずつの信託契約を作成するケースもあります。
二 請求者が不適当な時に請求を行ったとき。
三 請求者が信託事務の処理を妨げ、又は受益者の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
四 請求者が前項の規定による開示によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
五 請求者が、過去二年以内において、前項の規定による開示によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
【解説】前項の開示請求があったときは、受託者は、以下の場合を除き、拒むことができません。
- 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
- 請求者が不適当な時に請求を行ったとき。
- 請求者が信託事務の処理を妨げ、又は受益者の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
- 請求者が前項の規定による開示によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
- 請求者が、過去二年以内において、前項の規定による開示によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき
これらの場合を除き、これを拒むことができないと規定されています。不適切な目的・時期等の事由がある場合は、拒むことができます。
【解説】別段の定めとして、信託契約等に定めがある場合は、前2項の規定にかかわらずに、その別段の定めによることと規定されています。
(担当・平石)