家族信託・民事信託のための信託法の条文解説(7)
- 家族信託の認知症対策
- 2021/10/26
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家族信託・民事信託の信託法の条文解説です。
この節では、受託者(個人・法人役員)の責任について規定されています。
第三節 受託者の責任等
受託者の損失てん補責任等
受託者がその任務を怠ったことによって次の各号に掲げる場合に該当するに至ったときは、受益者は、当該受託者に対し、当該各号に定める措置を請求することができる。ただし、第二号に定める措置にあっては、原状の回復が著しく困難であるとき、原状の回復をするのに過分の費用を要するとき、その他受託者に原状の回復をさせることを不適当とする特別の事情があるときは、この限りでない。
一 信託財産に損失が生じた場合 当該損失のてん補
二 信託財産に変更が生じた場合 原状の回復
【解説】受託者の任務懈怠により信託財産の損失が生じた場合には、
受益者は、当該損失のてん補、信託財産に変更が生じた場合は、原状の回復を請求することができます。
ただし、原状の回復が著しく困難であるとき、原状の回復をするのに過分の費用を要するとき、その他受託者に現状の回復をさせることを不適当とする特別の事情があるときは、例外となります。
【解説】受託者は、以下の場合には、信託事務の処理を第三者に委託することができます。
- 信託契約等に信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託する旨の定めがあるとき
- 定めがない場合において、委託が信託の目的に照らして相当であると認められるとき
- 信託契約書等に委託禁止の規定があるが、信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認められるとき
上記の事由に該当しない場合に(違反して)、信託事務の処理を第三者に委託して、信託財産に損失・変更を生じたときは、
「第三者に委託をしなかったとしても損失又は変更が生じたこと」を証明しなければ、信託財産の損失のてん補、原状回復の責任を免れることはできないと定められています。
【解説】以下の違反行為についての推定規定です。
受託者は、当該行為によって受託者や利害関係人が得た利益の額と同額の損失を信託財産に生じさせたものと推定すると定められています。
受託者が受益者に対する忠実義務(30条)
- 信託財産に属する財産を固有財産に帰属させ・又は固有財産に属する財産を信託財産に帰属させること(31条1項)
- 信託財産を他の信託財産に帰属させること(31条2項)
- 信託事務の処理としてすることができる行為であってこれをしないことが受益者の利益に反するものについては、これを固有財産又は受託者の利害関係人の計算でしてはならない(32条1項)
- 32条1項の規定にかかわらず信託契約等にできる記載のある時・受益者に対して重要な事実を開示して受益者の承認を得た時(できない旨の信託契約書等の定めがあるときは除く)(32条2項)。
【解説】受託者が分別管理義務に違反して信託財産を管理した場合に、損失・変更を生じた時は、違反がなかったとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、てん補責任、原状回復責任を免れることはできないと定められています。
法人である受託者の役員の連帯責任
【解説】法人である受託者の理事・取締役・執行役・これらに準ずるものは、悪意または重過失があるときは、受益者に対し、法人と連帯して、損失のてん補・現状回復義務を負うことになります。
損失てん補責任等の免除
受益者は、次に掲げる責任を免除することができる。
一 第四十条の規定による責任
二 前条の規定による責任
【解説】受益者は、受託者や受託者の役員の損失てん補責任や原状回復義務の責任を免除することができると定められています。
損失塡補責任等に係る債権の期間の制限
【解説】受任者の任務懈怠による債権の消滅時効は、以下のとおりです。
受益者が当該債権を行使することができることを知った時から5年間
損害が発生した時から10年間
第四十一条の規定による責任に係る債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 受益者が当該債権を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 当該債権を行使することができる時から十年間行使しないとき。
【解説】法人である受託者の役員の連帯責任による債権の消滅時効は、以下のとおりです。
- 受益者が当該債権を行使することができることを知った時から5年間
- 損害が発生した時から10年間
第四十条又は第四十一条の規定による責任に係る受益者の債権の消滅時効は、受益者が受益者としての指定を受けたことを知るに至るまでの間(受益者が現に存しない場合にあっては、信託管理人が選任されるまでの間)は、進行しない。
【解説】受託者等の任務懈怠による受益者の消滅時効は、
受益者が受益者としての指定を受けたことを知るに至るまでの間(受益者が現に存しない場合にあっては、信託管理人が選任されるまでの間)は、進行しないと定められています。
【解説】前項の債権は損害が生じた時から20年で消滅することになります。
受益者による受託者の行為の差止め
【解説】受託者が法令・信託行為に違反する行為をし、又はおそれがある場合において、「信託財産に著しい損害が生ずるおそれ」があるときは、
受益者は、当該受託者に対し、当該行為の差止を請求できると定められています。
【解説】受益者が2名以上いる場合、受託者は公平にその職務を行わなければならないが、この規定に違反し、又は違反するおそれがある場合において、「一部の受益者に著しい損害が生ずるおそれ」があるときは、当該受益者は、受託者に対し差止請求できると規定されています。
費用又は報酬の支弁等
【解説】てん補請求、原状回復、差止の請求において、受益者が受託者に対し訴訟を起こし勝訴した場合(一部勝訴含む)、必要な費用(訴訟費用は除く)又は専門家に支払う報酬があるときは、その額の範囲内で、相当と認められる額を限度として、信託財産から支弁するとされています。
【解説】前項の訴えを提起して負けた場合でも、悪意でなければ、受益者は、受託者に対し損害賠償義務を負わないと定められています。
検査役の選任
【解説】受託者の信託事務の処理に関して、不正を疑うに足りる事由がある場合は、受益者は、調査させるために検査役の選任の申立てをすることができます。
【解説】申立てがあれば、裁判所は、これを不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならないと定められています。
却下する裁判には、理由を付さなければなりません。
検査役選任の裁判については、不服申し立てできません。
また、検査役は、裁判所が定める報酬を受けることができ、報酬を定める際、受託者及び検査役の陳述を聴かなければならないとされています。
なお、検査役の報酬を定める裁判については、受託者及び検査役は、即時抗告することができます。
【解説】検査役は、受託者に処理状況・財産・債務の状況の報告を求めることができ、帳簿等を調査することができます。
検査役は、調査し、その結果を裁判所に報告しなければならず、裁判所は、報告に対し必要な場合は更に報告を求めることができます。検査役は、裁判所に報告した時は、受託者及び受益者に対し写し等の交付をする必要があります。
受託者は、検査役から写し等の交付を受けた時には、申し立てをした受益者を除いた受益者に通知を行う必要があります。なお、信託契約書等に別段の定めがあるときは、その定めによることになります。
裁判所は、検査役からの報告があった場合において、必要があると認めるときは、受託者に対し、その結果を受益者に通知することその他の周知するべきことを命じなければならないと定められています。
(担当:平石)