家族信託・民事信託のための信託法の条文解説(2)
- 家族信託の認知症対策
- 2021/9/14
- 2021/9/14
家族信託・民事信託について、信託法を読み解く
信託の方法
第三条 信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。一 特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法二 特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法
三 特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法
【解説】 信託をする方法には3つあります。
- 信託契約を締結する方法
- 遺言による方法
- 自己信託(委託者と受託者が同じ)の方法
家族信託・民事信託では、①の家族信託契約を締結する方法が最も多いです。
信託の効力の発生
第四条 前条第一号に掲げる方法によってされる信託は、委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる。
2 前条第二号に掲げる方法によってされる信託は、当該遺言の効力の発生によってその効力を生ずる。
3 前条第三号に掲げる方法によってされる信託は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものによってその効力を生ずる。
一 公正証書又は公証人の認証を受けた書面若しくは電磁的記録(以下この号及び次号において「公正証書等」と総称する。)によってされる場合 当該公正証書等の作成
二 公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合 受益者となるべき者として指定された第三者(当該第三者が二人以上ある場合にあっては、その一人)に対する確定日付のある証書による当該信託がされた旨及びその内容の通知
4 前三項の規定にかかわらず、信託は、信託行為に停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生ずる。
【解説】 信託の効力の発生時期は信託をする方法により異なります。
- 信託契約を締結する方法による場合は契約を締結した時。
- 遺言による方法の場合は遺言の効力が生じた時
- 自己信託(委託者と受託者が同じ)による場合は2つに分かれます。
イ.公正証書等でなされている場合は、当該公正証書の作成時期
ロ.公正証書等で、作成されていない場合は、
受益者に確定日付のある証書で信託がされた旨及びその内容の通知がなされた時
上記の効力発生に条件や始期がついてるときは、
条件の成就や始期の到来時に効力が生じることになります。
実際の家族信託のご相談でも、条件を付けたいというご相談もあり、
たとえば、父親や母親が認知症になったときから、
家族信託の効力を発生させたいという要望もあります。
このような場合は、条件の発動時期を、明確に特定する必要があるため、
たとえば医師の診断書を条件とするなど、明確な条件を設定する必要があります。
ただ、できれば、元気で判断能力もしっかりしているうちから家族信託をスタートして、
その様子を委託者(受益者)として見ながら、
実際の家族信託を進めていくという形が望ましいと考えています。
遺言信託における信託の引受けの催告
第五条 第三条第二号に掲げる方法によって信託がされた場合において、当該遺言に受託者となるべき者を指定する定めがあるときは、利害関係人は、受託者となるべき者として指定された者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に信託の引受けをするかどうかを確答すべき旨を催告することができる。ただし、当該定めに停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件が成就し、又は当該始期が到来した後に限る。2 前項の規定による催告があった場合において、受託者となるべき者として指定された者は、同項の期間内に委託者の相続人に対し確答をしないときは、信託の引受けをしなかったものとみなす。
3 委託者の相続人が現に存しない場合における前項の規定の適用については同項中「委託者の相続人」とあるのは、「受益者(二人以上の受益者が現に存する場合にあってはその一人、信託管理人が現に存する場合にあっては信託管理人)」とする。
【解説】 遺言信託で、遺言書に受託者となるものの指定があるときは、
利害関係人(委託者の相続人や遺言執行者)は、
指定されたものに対し受託者として信託を引受けるかどうか催告することができます。
期間内に、委託者の相続人に対して返事がない場合は
信託の引受けをしなかったものとみなされます。
委託者の相続人がいない場合は、受益者や信託管理人への返事を行うことになります。
実際の家族信託の実務では、遺言信託を行う場合、
事前に受託者となることの承諾を得ておくことが通常です。
遺言信託における裁判所による受託者の選任
第六条 第三条第二号に掲げる方法によって信託がされた場合において、当該遺言に受託者の指定に関する定めがないとき、又は受託者となるべき者として指定された者が信託の引受けをせず、若しくはこれをすることができないときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、受託者を選任することができる。2 前項の申立てについての裁判には、理由を付さなければならない。
3 第一項の規定による受託者の選任の裁判に対しては、受益者又は既に存する受託者に限り、即時抗告をすることができる。
4 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。
【解説】 遺言信託において、遺言書に受託者の指定に関する定めがないとき、
指定されたものが信託の引受けをしないときは、利害関係人の申し立てにより、
裁判所は受託者を選任することができます。
受託者の資格
【解説】 未成年者を受託者として選任できないのは、
受託者の責任の重さによるものといえます。
家族信託では、委託者の財産の信託を受け、
受益者のために適切な管理を行う必要があります。
受託者の利益享受の禁止
【解説】 受託者=受益者になる場合を除き、信託の利益の享受は、
あくまで受益者であるので、受託者が、どのような名目であっても、
信託の利益を享受できないということです。
脱法信託の禁止
【解説】 専門的な用語が並んでわかりづらいのですが、
所有権等の取得が法令で禁止されている場合、
受益者として同じ権利を享受できる場合そのような信託は、
禁止されることになります。
例1 外国の方が日本の船舶を所有することは法律で禁止されています。
この法律の規制を逃れるため外国人が受益者となって
実質船舶を所有する権利を享受することはできません。
例2 外国の方は、日本で鉱業権を得ることはできないわけです。
しかし、鉱業権を信託して外国人を受益者にしてしまうと、
外国人が鉱業権を得ているのと同様の効果がありますので、
このようなこともできません。
訴訟信託の禁止
【解説】 脱法行為の具体例で、弁護士法違反になるような信託はできません。
詐害信託の取消し等
【解説】 信託契約が詐害行為として取り消されることもあります。
信託の仕組み自体が倒産隔離という機能をもっていますので、
債権の差押(強制執行)を回避するために悪用されやすいものといえます。
委託者が債権者を害することを知って信託した場合、
受託者の善意・悪意に関わらず、債権者は、
受託者を被告として裁判所に詐害行為取消請求をすることができることになります。
ただし、受益者が現に存する場合においては、
受益者が指定を知った時あるいは受益権を譲り受けた時に
全受益者が債権者を害すべき事実を知っていた場合に限り、
債権者は信託行為を取り消せます。
受益権者が現に存する以前については、取消権の行使は制限されません。
【解説】 信託契約を詐害行為として取消す判決が確定した時、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する債務(信託財産責任負担債務)の債権者(委託者除く)が、当該信託財産にかかる債権を取得した時において債権者を害することを知らなかったときは、委託者は、詐害行為取消請求により受託者から委託者に移転する財産の価額を限度として当該信託財産責任負担債務について弁済の責任を負うと規定されています。
【解説】 信託契約を詐害行為で取消した場合に、受託者が委託者に有する権利は、金銭債権とみなされることになります。
【解説】 債権者が受益者を被告として詐害行為取消請求をすることができるという規定です。その場合、当該受益者及びその前に受益権を譲り渡した全ての者が、受益権者になった時点で、債権者を害することを知っていた時に限ると定められています。
【解説】 委託者が詐害行為を行った場合、債権者は、受益者を被告としてその受益権を委託者に譲り渡すことを訴えをもって請求できるが、当該受益者及びその前に受益権を譲り渡した全ての者が、受益権者になった時点で、債権者を害することを知っていた時に限ると規定されています。
【解説】民法第424条の詐害行為取消請求に係る訴えは、詐害行為の事実を債権者が知った時から2年、行為の時から10年で消滅します。この条項を詐害信託行為にも準用されています。
【解説】詐害行為取消権を逃れる目的で、詐害行為について何も知らない者にに無償で受益権を譲り渡してはならないと規定されています。
【解説】詐害行為取消権を行使して、受給権者を訴えるときに、指定された者又は譲渡された者すべての者が受給権を取得した時に、委託者の債権者に対する詐害行為を知っていることが要件となるが、
故意に知らない者を受益権者に入れた場合は、その者を除いて全員が知っていたか、知らなかったかを判断する、と規定されています。
詐害信託の否認等
【解説】 破産者が委託者としてした信託における詐害信託の否認は、
指定された受益者及び譲渡された受益者すべてが受益者になった時点で
破産債権者を害することを知っていた時に限ると規定されています。
【解説】破産管財人は、受益権を破産財団に返還することを
受益者に訴えをもって請求することができるが、
受益者が受益者になった時点で破産債権者を害することを知っていた時に限ると規定されています。
【解説】 再生債権者を害する行為の否認においても
受益権者が再生債権者を害することをなった時点で知っていた場合のみ
否認できると規定されています。
【解説】否認権限を有する監督委員又は管財人が受益者を被告と訴える場合にも、
受益者自身が再生債権者を受益者になった時点で知っていた場合に限ると規定されています。
【解説】前2項の規定は、更生会社等に準用することになります。
会計の原則
【解説】家族信託・民事信託において委託者、受託者は、
親族関係にあるものがほとんどでしょう。
長期に渡ると、どうしても、緩くなってしまう可能性も考えられます。
チェック機能も含めて、信託の会計をどうするかの制度設計は、非常に大切なものです。